執筆:歯科医師 河合良治
はじめに
歯列矯正を考える際、歯周病の患者様は特に注意が必要です。
歯周病は歯とその周囲の組織に影響を及ぼすため、矯正治療が歯に及ぼす物理的な刺激のストレスが気になるところです。
特に、矯正装置が歯周病の進行を促進させるのではないかという懸念があります。
さらに、歯周病による歯や周囲の歯周組織の弱体化は、矯正治療中の歯の動きを不安定にし、治療期間の延長や予期せぬ結果をもたらす可能性があるため、治療を開始するには慎重に見極める必要性があります。
歯周病と歯列矯正の関係
歯周病が進行すると、歯と歯周組織に深刻な影響を及ぼします。
初期段階では、歯肉炎として知られる歯肉の軽度の炎症から始まりますが、適切な治療が行われない場合、症状は悪化し、歯周病へと進行します。この段階では、歯を支える骨が徐々に破壊され、歯茎が後退し始めます。歯の根が露出し、歯が揺れやすくなり、最終的には歯が抜ける恐れがあります。さらに、歯周病は全身の健康にも影響を与える可能性があり、心臓病や糖尿病といった他の健康問題との関連が指摘されています。
歯列矯正治療は、このような歯周病の進行状況によって影響を受けます。
健康な歯と歯肉の場合、矯正治療は比較的安全に行うことができ、歯周病のリスクを高めることはありません。しかし、既に歯周病が進行している場合、特に注意が必要です。
矯正治療は、歯を動かす過程で歯周組織に一定の圧力をかけるため、歯周病がある場合、その圧力が歯を支える顎の骨に負荷をかけすぎる可能性があります。これにより、治療中に歯の安定性が低下し、最悪の場合、歯の喪失に繋がるリスクが高まる可能性があります。
歯周病の治療と矯正治療への道
歯周病の治療は、進行を遅らせ、可能な限り現在ある歯を健康的な状態に戻すことに重点を置いています。治療方法には、プラークと歯石の除去、感染部分のクリーニング、必要に応じて抗生物質の使用などが含まれます。さらに進行した場合には、歯周ポケットの減少を目指した外科的手術が必要になることもあります。
これらの治療法は、歯周病による歯の損失を防ぎ、歯と歯ぐきの健康を改善することを目的としています。定期的な歯科検診も、治療の成功には不可欠です。
歯周病が治療によって落ち着いた後、治療後の歯と歯肉が健康であれば、歯列矯正治療は行うことが可能な場合が多いです。歯周病が適切に管理され、歯周組織が安定した状態にあれば、歯列矯正による歯の移動は安全に行うことができます。しかし、歯周病の治療後でも歯周組織の回復が見込めない場合や、安定しない場合には注意が必要です。矯正治療のプランを慎重に検討し、必要に応じて治療期間を調整したり、矯正治療の治療方針を変更したりすることがあります。
この段階で重要なのは、歯科治療の状況の把握をしていただくために患者様へしっかりとご説明を行い、ご納得いただくことです。歯科医師との密接なコミュニケーションと、定期的なフォローアップがとても大切になってきます。
関連情報:当院HPより
歯列矯正治療の開始
歯周病を経験した後の歯列矯正治療は、特別な注意が必要です。
まず、歯周病の影響により、歯の支持組織、歯を支える顎の骨などが弱まっている可能性があるため、矯正治療による歯の移動は十分慎重に行わなければなりません。また、歯列矯正中は歯ブラシが届きにくい部分が生じるため、プラークの蓄積が増加し、歯周病が再発する可能性も高まります。さらに、矯正装置による刺激が歯肉に影響を与え、炎症を引き起こすこともあり得ます。
治療を開始する前の準備として、まずは歯科医師による徹底した口腔内の精密検査が必要です。これには、歯と歯ぐきの健康状態の評価、レントゲンの撮影や歯周病の検査が含まれます。歯科医師はこれらの情報を基に、歯周病の現状と、歯列矯正におけるリスクを評価します。また、歯周病の治療が完全に終了していることを確認し、必要に応じて追加の治療を行うことがあります。矯正治療を始める前には、患者様自身も日常の口腔ケアを徹底することが求められます。特に、ブラッシングとフロスの使用によるプラークコントロールは、矯正治療中の歯周病のリスクを減少させる上で重要です。
以上のような準備と注意点を踏まえた上で、歯科医師は患者様に最適な矯正治療計画を立てます。この計画は、患者様のお口の状態やニーズに応じてカスタマイズされるため、それぞれに適した治療が可能となります。
関連情報:当院HPより
参考文献情報:王 佳敏 著 歯周病罹患歯に矯正力を与えた場合の歯周組織の変化について
まとめ
歯周病があるうちは矯正治療を進めてはなりません。また、歯周病を経験した患者様が歯列矯正を安全に行うためには、再発をつねに意識して通常以上に日々のプラックコントロールが必要です。ブラッシングとフロスを使った適切なプラークコントロールは、歯周病の再発を防ぎ、矯正治療中の潜在的な問題を最小限に抑えます。
また、歯科医院で定期的にクリーニングやチェックアップを受けることも大切です。当院では、まず健康状態になっていただいてから矯正を進めていきますが、この際に大切なのは、患者様と一緒にリスクを考えて毎月進めていきます。
もし、なにか気になることや、お口の状況の把握がしたいなど質問事項があっても遠慮なく聞いていただけます。
歯周病の治療をしたことがある、現在歯周病の治療をしている中で矯正治療にも興味があるなど、お気軽に当院へご相談ください。